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2006.07.14

障害者自殺支援法

 健康である事を前提として全てが成立している、『強者の帝国』である日本において、知的・身体、精神に障害を持つ人達はこれまで、憲法二十五条の建前の元で運営される社会保障・社会福祉によって、細々と暮らしてきた。

 労働と納税の義務を果たそうにも就労すらままならず、それでも、障害の程度が軽い者は、
一般企業で低賃金の単純労働に就いたりしていたが、それすらもままならない、重度の障害を持つ人達は、授産施設でごく僅かな収入を得ながら、「労働」と言う社会参加をしてきた。

 この4月、障害者団体や様々な関係機関の反対を無視して、厚生労働大臣の言う「大多数の納税者の理解を得るためにも、障害者も痛みを受け入れて欲しい」と言う理論の元で、「障害者自立支援法」が施行された。

 この法律は確かに、これまでいくつもに分かれていた障害者福祉サービスの、供給源を一元化して効率を上げ無駄を省いたりと、いい面があるのも事実だが、一般企業で働く事が不可能な、しかし成果、つまり利益をあげる事を最重要として求められる事の無い、授産施設での単純作業ならばかろうじて労働が可能だった、ある程度以上の重さの障害を抱える人達にとっては、実に残酷で凄惨な法律となった。

 この法律は、これまでは国からの支援を受けていた障害者施設に通う障害者達にも、その施設利用料を負担しなさい。
 という法律なのだが、効率、とか生産性、とかを求める事がほぼ不可能だった彼等にとっては、その負担を強いられる施設利用料が、彼等の稼ぐその僅かな収入の大部分、ケースによっては8割近く、あるいはそれ以上になるという、人道主義の対極に位置する内容になっている。

 非公開とされていたらしい厚生労働省のデータによると、支援法施行前と後では、障害者のサービス負担額増加率は居宅で5.6倍、通所では12倍の増加となるらしい。(参照;
障害者の自立を考える

 通所施設や居宅サービスが受けられなくなった低所得の障害者達は、一体何処にいけばいいのだろう?
 どうやら自立支援といいながら政府は、彼等を社会から排除する事に決めたようだ。

 この国の政府はもう、生産性や効率性が期待出来ない人間にはいなくなって欲しいのだろう。だから、改正介護保険法や医療制度改革だけでは飽き足らず、障害者も排除対象とする事に決めた。
 民主主義とは、実に残酷な政治システムだ。
 最大多数の最大幸福を追求するこの制度は、弱者を切り捨てる機能を自動的に内包している。「自分達もある日突然、切り捨てられる側になるかもしれない」と言う想像力を持たない多数派で構成される社会においては、多数派ではない者達は切り捨てられる運命にあるのだ。

 そこには人道主義も論理もモラルも無い。
 あるのはただ、効率と費用対効果と言う冷酷な市場原理だけだ。

 法施行前と同じサービスを受ける事が経済的理由で不可能となり、それが社会からの疎外に直結してしまう重度の障害者にとって、『障害者自立支援法』は『障害者自殺支援法』だ。
 しかし、この法律はさしたる反対も無く施行された。一部の野党は異議を唱え反対を言い続けたが、彼等はこの国の多数派からは支持を得ていない。

 交通事故で重度の身体障害を負ってしまうかもしれない。
 生まれてくる自分の子供が、重度の知的障害を負っているかもしれない。

 もし、そう言った類の想像力があれば、弱者を切り捨てる事に無関心でいられるはずがない。
 一人の人間として悲しむべき現実だが、この国の多数派は「いつか自分も金持ちになれるかもしれない」と言う想像力だけしか持たないようだ。
 だから、強者の論理で決められるシステムを支持し続ける事が出来るのだろう。しかしながら、この国のエリート達は庶民に自分達が享受している特権を分けたり、「超金持ちクラブ」に新たな会員を加えようとはしていない。大衆には自分達の政策を承認したり、よく似た二つの政策、そのどちらかを選ぶ権利しか与えられていないのだ。

 ある程度の収入源を持つ健康な日本人には、想像力を働かせないと弱者の気持ちなんか理解出来ない。
 高齢者福祉を生業とする僕にとっては、社会的弱者を排除対象とするこの国のあり方には腹が立って仕方が無いのだが、しかし、ドラマの続きやスポーツの結果にしか関心が無いこの国の多数派市民にとって、障害者や社会的弱者の事などどうなってもいいのだ。
 だから、障害者や社会的弱者を切り捨て、国家の予算を大企業の利益を保護したり大企業の利益拡大の為に使う自民党・公明党政権を支持する事が出来る。

 この後、年収1800万円以上の層が所得税増税を受ける。
 しかし、20年前には80%近くあった年収1億円以上の層からしてみれば、37%まで下げてもらった税率が40%に戻るだけだ。
 そして、次には消費税増税が待っている。恐らく8%程度になるだろう。

 その次は何だ?憲法改正か?

 大衆が支配者やビジネスエリート達に騙されていたと気付く頃には、全てが回復不可能な所まで来ているだろう。
 国民が変わらない限り、この国には暗い未来しか用意されない。
 それはエリート達にとっては明るい未来だが。

 僕にとっては、完璧暗黒体の未来だ。


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コメント

国がちゃんと障害者の人たちを就職させてくれるシステムを作れれば問題ないけど。
絶対無理なわけで。
就職したくても出来ない人たちからさらに金をむしりとるこの国のお偉いさんは血がきったないんでしょうねぇ・・・

投稿: りえぽん | 2006.07.14 23:24

はじめまして、わたしは知的障害施設に勤めるものです。
本当に言いたいことを良くまとめておられるので、読んでいてうんうん頷いてしまいました。
高齢者や身体障害者に比べて、知的障害者は一般的に理解されにくい面があるために、世間的には存在しないものと思われているのではないかと変な疎外感を持ちます。
おっしゃるような想像力を持たない多くの人が国を動かしているような気になります。

投稿: purenaheart | 2006.07.15 08:20

りえぽんさん>
この国のえらいさん達はきっと、青色の血が流れてるんだと思います。ちなみに青色の血はヘモシアニンで構成されている、変温動物(エビとかヘビ)の血の事です。

purenaheartさん>
はじめまして!mizzie's cafeに、ようこそ!!
purenaheartさんのブログは僕も、ブログランキングで時々見かけて訪れたりしてました。
お褒めに預かりとても光栄です。(^^)v
この国のエリート達については、想像力だけでなく、苦しんでいる他者の痛みを共感できる、人間的な素質が根本的に欠損しているようにも感じます。障害者の問題に関しては、脱・施設化が政府の財政不足がpush factorになった(pull factorは施設の逆機能化現象)事を学んだばかりで、制度側に属する物として、少し悔しくもあります。

投稿: mizzie | 2006.07.16 22:37

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