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2006.09.01

放置プレイ

 「かんごふさぁん、かんごふさぁん・・・」

 ある夜勤日。

 職員の姿を見つけた入所者さんが、弱々しげな声で呼ぶ。

 「ちょっと来てぇ、ちょっと来てぇ・・・」

 看護士は定時の吸痰で、介護士はオムツ交換と体位変換で手が離せず、そこには駆けつける事が出来ない。

 「お願いします、お願いします、こっち来てください」

 それでも、視界に職員の姿を捉えている間中ずっと、この方は呼び続ける。


 実は、職員もその声を聞いている。しかし余程の事が無い限り、この方の呼び掛けには応じない。実はこの方、他人への依存度が異常なまでに強く、自分で出来る事でも何でもかんでも、職員の姿が視界内にある時はそれを職員に手伝わせる、或いは全てさせようとする方なのだ。
 排泄、食事は自立しているこの方、寝返りをうたせろとかベッド上での体の位置をずらせ、なんて事でも職員にさせようとする。

 「お願いします、お願いします、」

 すがるような声で言うそれを、黙殺し続けるのは側から見たらイジメだ。
 定時のオムツ交換、4人部屋に入っているその方の部屋に差し掛かった僕は、とにかく用件だけでも聞いておこうと声に応じた。

 「○×さん、どういたしましたか?」

 大抵の場合、ここで「ちょっと寝返りを打たせて」とか、布団を上へあげて」とか言われて、「そーゆー事は○×さんご自分で出来る事ですから、僕等にさせんとご自分でやってくださいね。」と答えて業務に戻るのだが、この日は少し違った!

 「胸が痛い、胸が痛い、」

 何ぃ!!

 「どうしました!胸のどの辺りが痛いの!?」

 「胸のこの辺りが(左胸を指す)痛い」

 心臓か!

 「どんな風に痛いが?ちくちくする?ひりひりする?きりきりする?」

 「針が刺さるみたいに痛い」

 心筋梗塞!?

 「大丈夫ですか!?堪えられんばぁ痛いろうか?」

 と言いながら、顔色、呼吸の様子、等の外から見て判る状態を素早く観察する。
 どこにも異常はない。呼吸も正常。血色もいい。

 「とにかく痛い。ちょっと背中から押してもらえんろうか?」

 「押す?どの辺りやろう?」

 言われて背中から肩甲骨周辺を触る。

 「もうちょっと下、もうちょっと左、そう、そこ、ちょっと押してみて。」

 言われた辺りを少し押してみる。

 「おぉ、そこそこ、ああ気持ちえい。」

 「○×さん、胸が痛いち、それは単なる肩凝りやき。」

 「えぇ?何かのう?かまんきもうちょっと押してや。」

 都合の悪い事はいつも聞こえないフリをするこの方、(仕方ないなぁ・・・)って肩を押してやる僕に、気持ち良さそうな顔をして横たわっている。
 (また筋肉量が減ったな・・・)
 僕は背中を押しながら、○×さんに言う。

 「筋肉が減ったやいか。何でも人にさせよったらどんどん力がのうなるき、ほんですぐに肩が凝らぁえ。もっと自分で出来る事は自分でやるようにせないかんで。リハビリもちゃんと行きゆうかねぇ?」

 「はぁ?なんつうたかいのぉ?」

 また聞こえないフリかよ・・・。

 「ほいたら僕はもう仕事戻らないかんきねぇ。もう夜も遅いきに、○×さんもよーだい(土佐弁。わがままとかバカな事とか多様な意味がある)言いよらんと寝よってね。」

 そう言って僕はその場を離れ、業務へと戻った。
 基本的に(つまり、声の調子が違うとか何か変化があれば駆けつける。が大抵はスカを食らう)職員は全員、この方の「ちょっと来て下さい」には応えない。


僕の場合は↓を押してくれると気持ちがいいんだな。
http://blog.with2.net/link.php?268283

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コメント

昔の童話を思い出しちゃいました。狼がきたぞーっていうやつ。普段いい加減なことを言っている人はいざというときに助けてもらえなくなるんですよね~。。急変したらどーするんだか・・

投稿: りえぽん | 2006.09.01 19:07

りえぽんさん>
僕も、この方がもし急変したら、その後に的確で迅速な対応がしてもらえるのか、甚だ疑問ではあります。

投稿: mizzie | 2006.09.02 02:22

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