« 仕事が辛くなる時 | トップページ | 仕事に充実感を感じる瞬間 »

2006.11.08

仕事が辛くなる時 Vol.2

 僕に7つの名前を与えた陽気なおばあちゃんが亡くなった後、同じ部屋にいたもう一人のおばあちゃんも静養室に移る事になった。

 この方は僕に対して、特に好意的でもなければ嫌っている訳でもない、比較的フラットに接してくる方だった。
(下品なギャグを連発して僕を困らせてくれる面白いおばあちゃんではあるが)

 昨日の記事で触れた方とは違い、急速に悪化した訳では無く、色んな機能が緩やかに低下し、下血や血尿もあり、幾つかの日常生活には不具合のある持病を持つ方でもあったので、数ヶ月掛けて緩やかに食思が減少し、体重が落ち、消化器系、循環器系の機能が低下し、主治医の判断で静養室へと移る事になった。

 僕がここで勤め始めたばかりの頃からいたこの方は、昨日の方とは違い、緩やかに様々な身体機能が低下してゆき、そしてとうとう静養室へ移る事となったが、1年前は二人共同じぐらい元気な方だったので余計にそう思うのだが、この方のケースで僕は、”日々弱っていくお年寄り”を間近で直に見ていく事となった。

 僕がここで勤め始めたばかりの頃は、若干の記銘力低下が見受けられたが、精神面は比較的良好で、身体も片麻痺があるとはいえ食事は自立で、持病の関係で飲食物への注意が必要だったが、要介護度4以上の人しかいない当院においては、職員にとって比較的”ラクな人”だった。この方も茶目っ気のある方で、職員相手に下品な冗談を言っては、こちらの対応を見て楽しむ。なんてコトをしたりもする、ある意味”カワイイばあちゃん”でもあった。

 一年前からこの春くらいまでは、特に目立った変化も無く過ごされていた。
 毎日地道にリハビリをこなし、麻痺になっていない側で、麻痺側の代替機能を獲得せんと、またこれ以上の機能低下を避けようと、機能維持・回復の為組まれたルーティンをこなしながら、日々を過ごされていた。

 夜勤では職員は入所者と同じ食事を食べるから判るのだが、院から出る食事には当たり外れがある。ハズレの時の食事は本当にマズい。

 嫌いな献立の時は摂取量がほぼ0になった辺りから、職員にはっきり判るくらい身体機能が低下してきた。

 血尿など、医師への報告を要するような症状が現れる回数も増えた。

 血糖値との関係で、飲み物がお茶か水だけに限定されるようになった。

 摂取カロリー(食事量、血糖値から大まかな数値を推測しているようだ)の関係で、絶食となり点滴につながれる事も何度かあった。

 同室だった方が亡くなった直後から、この方も一気に症状が悪化し、口からの飲食が出来なくなり、点滴につながれた。

 今は、静養室で医療的監視の下、容態観察が続いている。

 まだ、モニターがつながれたりはしていないので、回復して帰ってくる可能性が無いとは言えない。
(しかし家族に対しては主治医から「いつ容態急変があってもおかしくないので(万一の場合に備えた)準備はしておいてください」との通知はされている)

 

 

 だがしかし、

 

 (最近元気なくなったよな・・・)
 がはっきりと感じられるようになってから、日々、少しずつ無気力になっていくこの方を見ていくのは、介護職員として接していくのは、それなりに辛いものがあったのは事実だ。

 

 

 介護保険制度が施行された当初、日本は不景気のどん底だった。高止まりする失業率。リストラにつぐリストラ。一向に進まない不良債権処理。就職氷河期と言われ、数十社を受けても内定がもらえない大学生が溢れ、非正規雇用者と失業者とホームレスだけが増えている状況だった。

 そんな中で生まれた介護保険制度は、それまで政府の措置制度だった高齢者福祉をビジネスに変え、相当数の失業者に雇用をもたらした。

 

 ”介護”は、勉強でいい仕事にありつけなかった者達にとって、手っ取り早い技術職だったのかもしれない。中には理想や志を持ってこの業界に入ってきた者達もいたのだろうが、そこに待っていたのは残酷な現実だった。要介護の高齢者1人に対して、職員1人でも手に負えない時もあるというのに、5~6人の高齢者を一人で見なければならない。それが施設介護の現実だ。

 

 その過酷な現実の前で、燃え尽きて去っていく者がいる。

 尊厳なんか無視で、”こなす仕事”に堕ちていく者がいる。

 

 それは、それなりの理想や志を持ってこの業界に来た僕にとって、悔しくも歯痒くもあり、腹立たしく情けなくもある。

 日本が不景気だろうが失業率が高かろうがコイズミが貧富の差を広げて固定化しようがアベシンゾーが憲法を変えて戦争の出来る国になってアメリカ軍の下請け部隊として戦争をする事になろうが、アメリカ永住権のある僕には関係の無い事だった。

 その僕が様々な事情で帰国して、そして日本での職業に介護業界を選んだのは、そこにいる人達に「人生の最後の時を、”笑顔で”過ごしてもらいたい」からであって、日々無気力になって”生きる意思”を失った高齢者達の、”延期された死”を観察する為ではない。

 

 それは些細な事かもしれない。

 だけど、こちらの何気ないしぐさや言葉で、”にっこり”と笑うじーちゃんばーちゃんの顔を見てる時、僕はたまらなく嬉しいし充実感と達成感を感じている。

 しかし、外科や内科、その他の一般病院の様に、”回復して”退院していく人は殆どいない。大抵の人が、ここで最後の時を迎えて行く。

 日々すこしずつ、しかし確実に弱っていく、反応が鈍く、遅くなっていく、感情や意思表示が無くなっていく。

 時々、物凄く徒労感に満たされる時がある。
 僕らは毎日、絶対に勝てない敵と闘っている事を忘れてはいけない。全ての人に平等にやってくるあいつは、来るのを遅らせたりは出来るけれど、それはいつか必ず来るのだ。

 加齢による身体機能低下により、他者からの介助なしには生きられなくなった高齢者達は、貧弱で劣悪な介護現場で提供される、様々な権利や尊厳を剥奪された環境下で、少しずつ”絶望感”と”無力感”を獲得していく…。
 まるで砂浜で掘った穴から海水が滲み出してくるように、それがすこしずつ、しかし不可逆的に増えていくのを感じる時、僕は物凄く辛くなる。

 生きる事を諦めたかのような、あんな無気力な表情で日々を過ごすような生き方はしたくない。

 そして、自分がしたくない事を、他人にさせてはいけない。

 

 人間が生きて行く上で問題に直面した時、どうするかの選択肢は3つしかない。闘うか、逃げるか、無視するか、の3つだ。

 目の前に、生きる事に絶望した人達のクラスターがあって、それを無視してやりすごすなんて俺には出来ない。
 尻尾巻いて逃げ出すなんて絶対にイヤだ。

 となると、闘うしかないのだが、しかしどうやって?

 

 

 医学の進歩で、日本のような先進国の人は簡単には死ねなくなった。
 誰かの助け無しには生命の維持が出来なくなっても、そこから数年、場合によっては数十年は生きていく事が出来る。
 しかし、生きる意欲を無くしたまま、ただ呼吸し、栄養を摂取し、排泄するだけの生き物として、生きる気力も無く日々を過ごすには、その期間は長過ぎる。

  
 介護保険制度は、厚労省の役人達に新しい天下り先を作っただけで、”政・官・業”癒着の”たかりシステム”には一切手を付けず、財務事情が悪化したら利用者を切り捨て、天下り先や”たかりシステム”は温存された。

 低所得者保護として用意された幾つかの政策は廃止されたり整理されたり縮小されたりして、経済的弱者の老後は”生かせるだけ”な収容所へ行くしかないようになっている。

 教育基本法改正案が自民党原案のままで可決すれば、教育にも資本主義原則、つまり”良質な物は可能な限り高価になる”が持ち込まれるだろう。そしてそれは、受けられる教育の質が経済力で左右される時代が来ると言う事だ。

 2005年の解散総選挙で小泉自民党を支持した、”超金持ち”ではない有権者と、棄権して投票しなかった有権者やその子供達が老後を迎えた時、

 そこに用意されているのは”生かせるだけ”な収容所で、生きる事に絶望しながら、自分の意思とは無関係に延長させられた余生を陰鬱に送るだけの日々だろう。

 決められた時間に起こされて、

 決められた時間に食べさせられて、

 決められた時間に洗われて、

 決められた時間に排泄させられて、

 決められた時間に寝る。

 そんな一日が、何年も何年も続く。

 選挙に行かなかった人と、自民党・公明党に投票した”超金持ち”ではない有権者達が望んだ老後はそれだ。

 

 

 僕も含めた現場の職員達は皆、理想と現実のギャップと、制度の矛盾にやりきれない思いを抱えながら毎日もがいている。

 でもこの国は、北朝鮮や中国の様に、『全てをお上が決めて、国民はそれに従うだけ』の全体主義の国ではない。
 自由意志が尊重される民主共和政体の国家においては、全ては国民が選んだ事になるのだ。

 僕は”辛い思いをしながら”日々を過ごして行くのはイヤだから、”胸に痛みを覚えながら仕事をする”のがイヤだから、”ただ生かせられているだけ”の老後を送りたくなんかは無いから、国政選挙には必ず行く。それが誰だってかまわない。”超金持ち”への利益誘導を生業とする自民党・公明党候補に、最も勝てそうなヤツに投票する。

 ただ、それは僕がそうしているだけであって、”もしかしたら、自分も超金持ちになれるかもしれない”って考えている人は、積極的に自民党・公明党に投票していたらいいし、それかハナっから選挙なんか行かずに、自分の好きな事をやっていたら、遊んでいたらいい。

 自民党・公明党が政権政党である限り、この国は金持ちにとってはパラダイスだ。

  

 

 今日もカタいけどクリックしてね
Banner2_1
ブログランキングもだけど、ワンクリック募金もクリックしてね☆

|

« 仕事が辛くなる時 | トップページ | 仕事に充実感を感じる瞬間 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/8531/12533158

この記事へのトラックバック一覧です: 仕事が辛くなる時 Vol.2:

« 仕事が辛くなる時 | トップページ | 仕事に充実感を感じる瞬間 »