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2007.06.26

出処進退

「それじゃ、次はデザート食べようね。今日はグレープ味だよ。」

前回の夜勤時。その日の夕食で歯が全て抜け落ち、自力での咀嚼が不可能になっている○×さんの食事介助を担当していた僕は、ゼリーをスプーンで細切れにしてから、それを○×さんの口に運び込んだ。

「どう?おいしい?」

「おいしい。」

笑顔でそう答え、歯の無くなった口でその味を確かめるようにもごもごと口を動かしてから、ゴクリとそのゼリーを飲み込んだ。
それを何度か繰り返し、しかしいつもならほぼ完食されるその方が、その日は9割がた食べ終えた辺りで「もういらん」と言った。

その直後、ごぼっと音をさせて、先程飲み込んだゼリーを吐き出した。

「うわ、○×さんだいじょう・・・」

僕がそこまで言った所で○×さん、それまで食べた物を殆ど全て吐き出すかのように、大量の食物を吐瀉した。

突然の大量嘔吐に慌ててしまった僕は、その直後の対処に致命的な誤りをしてしまい、偶然ベテラン職員が僕の声に気付いて駆け付けてくれたから良かったものの、嘔吐物による気道閉塞で○×さんを死なせてしまう所だった。

『職員の不適切対応によるアクシデント』

として一連の出来事は医療安全委員会に報告され、僕はアクシデントリポートを書く事になったのだが、ホンの数日前にアクシデントを出し、その際病棟長に対して「次アクシデントを起こせば、辞表を書きます」と宣言していた僕は、(たった一週間でこれかよ・・・)って感じで、申し訳無さと情けなさの入り混じった複雑で陰鬱な思いを抱えたまま、その日の夜勤を終えた。

その時の夜勤は週末だったので、病棟長は週明けまで出勤してこない。
土曜から日曜に掛けて夜勤だった僕は、月曜日が夜勤明け公休日となるので病棟長と会うのは火曜日となるが、月曜朝、出勤してきた病棟長は僕が書いたアクシデントリポートを最初に目にするはずで、そして僕が「次にアクシデントを出せば辞表を書く」と公言した相手は病棟長だ。

「もう絶対にアクシデントは出さない」と誓っておきながら、たった一週間で形態がが異なるとは言え患者の命に係わるようなアクシデントを起こしてしまった、しかもその原因は完全な僕の不適切対応。
正直、まだ今の職場を辞めたくは無かったし、折角仲良しになった、打ち解けたじーちゃんばーちゃん達との関係を断ち切らなければならないのは悲しかった。

現実問題として、現在の状況から考えた場合、病棟長に頭を下げて許しを乞えば、それが受け入れられて許される可能性はとても高かったけれど、2度も失態を演じた自分を許す、それをする事を僕の矜持が許さなかった。

 

翌朝、僕はポケットに辞表を突っ込んで職場に行き、詰所でアクシデントリポートを読んでいた病棟長に事情を説明してから、

「前回、#★さんを転倒させてしまった時、次アクシデントを起こせば辞表を書きますと・・・」

と僕から切り出した所で病棟長、

「次にアクシデントを起こせば辞表を書け。と言ったのは、私達は人様の命を預かった仕事をしているんだから、常にその覚悟で仕事に当たりなさいという意味を込めて言ったのよ。患者さん傷つけて、辞表を出せば済むなんて簡単に考えられた方が迷惑だわ。仕事の失敗は仕事で取り返しなさい。今後は今まで以上に、責任感と冷静さを持って仕事に当たるように。」

と、言われ、僕の辞表は却下された。

 

僕等の仕事は、人様の命を預かっている。

失敗をしてしまったら辞めれば済む。なんて言う、どこかの悪徳企業や政治家とは根本的な質が違うのだ。

例えその報酬が守銭奴どもから嘲笑されるような低いものだったとしても、自分の仕事には誇りを持って、高い使命感と責任感と義務感を胸に仕事に当たれ。

自身の罪悪感から辞表を書いた僕に対する、病棟長からのメッセージはこれだ。

 

この事があってから、僕の仕事に対する態度がまた少し変化した。

 

 

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コメント

前回のアクシデントの記事のときに、「きっと病棟長の真意はこうですよ」とコメント書こうかと思っていたのですが、mizzieさんならその真意はとっくに気付いているだろうと思いあえてコメントしませんでしたが・・・まさかほんとに辞表を用意していたなんて(笑)。

日本人は「責任をとって辞職」とか「死んでおわびする」とかが多いですけど、辞めたり死んだりする以上にその場に居続けることは難しい。特にこの業界はそんな現場だと思います。

でも、次はないと思いますよ。辞める辞めないじゃなくて、利用者さんの命が・・・頑張ってくださいね。

投稿: hana | 2007.06.26 00:53

hanaさん>
僕は運がいいのか悪いのか、これまで突発事態に遭遇する確立がとても低かったのですが、その結果、突発事態に対する対処能力と、それに備える注意力がとても低くなっていた様です。
とかく、人は低きに流れ易い生き物ですから、もっと自分を厳しく律して、技術も知識にも磨きを掛けて、勤務中はマインドフルな行動が取れるようにならないとダメだと、深く自省するに至った次第です。

投稿: mizzie | 2007.06.26 17:04

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