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2007.07.31

Wings burning...

僕の職場では、新人、ベテラン、ヘルパー2級、1級、介護福祉士、準看護師、正看護師、資格・経験年数は全く関係なしに、全ての職員が最低1名は専任の担当患者を割り振られ、割り振られた患者のケアプラン評価から始まって、爪切り・耳そうじと言った整容から、私物管理、家人との連絡、等といった細々とした事に対して責任を持つと言うシステムが採用されている。

この制度は、無責任主義・責任放棄を許さないシステムとしても機能し、また、自分が担当した患者にはより深く関わっていく事になるので、準植物状態患者が過半を占め、業務業務で一人一人と関わる時間などほぼ皆無な医療介護施設で、ともすれば患者をモノとして扱ってしまいかねないその現実を食い止める効果も、少ないとは言え存在するのが現実だ。

通常、ヘルパーには自立度の高い、要介護度の低い患者が割り振られ、介護度が増す患者には経験豊富な介護福祉士があてがわれ、医療必要度が高い患者には看護師が割り振られるのだが、僕は、僕の入社直前に突然退職した看護師が担当していた二名がとりあえず割り振られ、ベテラン看護師の指導の下、僕はその二人のケアプラン評価や爪切り・耳そうじといった保整を行っている。ベテラン看護師が先月退職した後も、そのまま継続してその二人の準植物状態に近い、要介護度5の(もしあるのなら要介護度8か9くらいにしたい所だ)患者さん2名を、僕の受け持ち患者として担当している。

「準植物状態に近い」と言うくらいだから、二人とも意識はあるが、栄養摂取は流動食をマーゲンチューブを介して胃袋に直接送り込み、排泄は24時間オムツ、入浴は機械浴、更衣は全介助、つまり、典型的な『寝たきり老人』だ。
この二人は栄養摂取も排泄も更衣も保整も、体動すら自力では出来ず、僕等の提供する24時間体制の一時間毎に施行される看護・介護無しでは、その生命維持は不可能だ。

二人の内、家人が頻繁に面会に来る一人の方(☆@さん)は、一日の殆どを傾眠状態で過ごしてはいるが、起きている時はこちらからの声掛けにもか細い声で「はい、、」なんて応えてちゃんと反応してくれるし、爪切りとか耳そうじの時に「、、、アリガト」何て言ってくれたりもして、排泄と栄養補給、体位変換にちょっとコツが必要で慣れるまでは、そして慣れてからも手の掛かる方なんだけど、その方を担当している僕にとっては、それなりに可愛いとも思える、念入りにケアしてあげたくもなる患者さんだったりもする。
(もちろん、えこひいきをしてはいけないんだけど)

もう1人の方は、入社2年目の僕が、まだ一度も家人を見た事が無いと言う方で、しかし先輩職員曰く、「○×さんの家人さんはウルサイ人だから気を付けておいてね。」と言う、こちらへの注文とあら探しが細かい御家族を持つ方らしかった。
この○×さん。四肢の拘縮が進み、麻痺側の足と腕はもう縮こまって伸ばす事が出来ない。理学療法士の所見でも「間接可動域に著しい制限が見られ、外力には痛みを感じるようだ。」となっている。痛みに関しては発語が「アー」とか「ウー」とかしか言えなくなっているので、拒否動作の強さでそれを推測しているようだった。
この人も栄養摂取は流動食、排泄は24時間オムツで、自力排便が困難なので排泄誘導薬で強制的に排便させて対応している。自力での体動も不可で、一日4回の体位変換処置が無ければ全身にじょく創が出来てしまう所だろう。

この方は☆@さんと異なり、一日の殆どの時間を起きているので、院貸し出しのテレビを朝から晩まで点けっぱなしにして、音と映像で脳に刺激を与えて脳機能のこれ以上の低下を少しでも遅らせようとしてはいる。声掛けもしつこいくらいに行う。だからこちらからのケアに関する反応と言う点だけにフォーカスすれば、☆@さんよりもそれは明確だ。

しかし、

この方のこちらに対する反応は、その全てが拒否動作だ。

僕はこの方の爪切りとん耳そうじをケアプランに従い、月2回行っているんだけど、こちらに対して協力的な☆@さんとは違い、○×さんのそれは常に拒否動作だ。拒否するのは保整だけでなく、オムツ交換、体位変換、口腔ケア、その他全てのケアに対し、この方は全力で拒否動作を取る。

便秘が数日間続き、医学的な理由から便秘薬が処方され、それまで大腸内に蓄積されていた便が一度に放出され、オムツカバーからも溢れた便がラバーシーツに水溜りのようになって、その軟便、水溶便の海の中で、便まみれになった○×さんの体から汚れたパジャマを脱がして裸にして、洗浄用ボトルで温水を掛けながら清拭用のカット綿で体に付いた便を拭い取る。ウンコまみれになった○×さんを、こっちもウンコまみれになりながら清拭する。その間じゅうずっと、この方はこちらのケアに対して強い拒否動作を取り、こちらのケアをさらにやり辛くする。するだけでなく、哀願するような瞳で、哀しみを湛えた瞳でじっと僕の事を見つめている。

そんな時、(そしてそれはしょっちゅうある)僕はとても哀しくなる。

見舞いに来ている所なんか見たことの無いこの方の家人だけど、やはり自分の家族だから少しでも長く生きて欲しいのだろう。そして介護保険制度の建前が『本人意思の尊重』だとは言え、医療介護施設での最重要課題は『生命維持』だ。
だけど、僕がこの方と関わっている時、この方はそれをこれっぽっちも望んでなんかいないんじゃないのか?って思ってしまう時がしょっちゅうある。

好きなものも食べられず、膀胱のコントロールも出来ずオシッコは常時垂れ流し、自力排便は無く、排便誘導薬で強制排泄、自力での体動も出来ず、どこか痒い所があっても掻くことすら出来ない。テレビは点けっぱなしにしてくれているけれど、見たい番組は見られないし、続きが見たくても消灯時間には消されてしまう。代わりに点いている時間は、見たくない番組も見ていなければならない。全てが他人によって行われ、そこに自由意志の入る余地など無く、ただ『生命維持』と言う目的に沿って全てが他人によって強制される。
僕は以前、「医療介護は刑務所以上軍隊未満だ」と書いたけれど、○×さんにとっての介護は監獄以下、Just hellだ。

そこには救いなんてどこにも無いように思える。

 

でも、この人は、僕等が提供する介護・看護が無ければ、あっという間に死んでしまう。

生命維持を全力で拒否しているようにしか思えないこの方を、僕等は生かせ続ける。「自己決定権の尊重」なんかどこにも見当たらない。

そこには理想なんて無い。

友愛も、Compassionも無い。

 

もう、僕の翼はボロボロだ。
マルチエンジンだって、もう3発くらい死んでいる。
残ったエンジンも異常燃焼でエロージョン起こしてる。まるで8時間走りきった後のヨシムラ8耐仕様エンジンだ。

でも安全に降りられそうな不時着地点なんて、視界内にはどこにも見えない。

 

ああ、また今日も目覚ましが鳴っている。

そして僕は体のスロットルレバーを開けて、疲れた体にガソリンを送り込む。そして、心の回路を遮断して職場へと向かう。

僕はどうすればいい?

誰か教えてくれないか?

 

 

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