« 教育格差 | トップページ | 医療・福祉にG.W.なんかあるかよ! »

2008.05.02

介護者の胸をえぐる

「・・・号室、新入院です。@#様、89歳女性、糖尿病により両下肢切断、食事、排泄、更衣は自立です。口腔ケアは・・・詳細はカルテで確認して下さい。」

もうすぐなくなる医療介護病棟だけど、特養入所待ちの人とか、新規入所者は空きベッドが出るとそれなりにやって来る。その日が夜勤だった僕は申し送りで、その新規にやってこられた方についての概要を説明されて、その後はカルテで詳細を確認してから仕事に入った。

両下肢を切断している以外には、普通の80代女性と何も変わる所の無いこの方は、ちょっと性格的に難しい所があるが、こちらからの理論的な説明にはきちんと納得して下さるので、それは慣れてしまえばそんなに難しい人ではない。接し方さえ間違えなければ、やりやすい利用者だとも言える。チョーワガママな所もあるんだけど、それなりに可愛いところもあったりして、それはまあ、本当にごく普通のばーちゃん。って感じの方だった。

その日の夜勤も、特に事故や突発事態も無く、比較的穏やかに(”比較的”だから、それなりに職員が苦労する場面はある)過ぎていた。仮眠も済んで詰所で休憩していたら、そのナースコールが鳴った。呼んでいるのは上で触れた新入所のばーちゃん。用件は言わないで、とにかく来てくれと言うので僕が病室に向かった。

僕:「失礼します。@#さん、どうしました?」

(となりのベッドから)
「ちょっと来て下さい、ちょっと来て下さい、」

@#さん:「もう隣の人がうるそうて、昨夜から全然眠れんちや。何とかしてくれんろうか?」

僕は(また$¥さんかよ・・・)ってどこかで思いながら、カーテンで隔てられた隣のベッドをちらりと覗いた。$¥さん僕を見るなり、「早く来て下さい」と連呼。昼夜逆転で夜は殆ど起きている$¥さん、チョーワガママで依存性が強く、視界に職員の姿を見つけると必ず呼びつけて、寝返りを打たせろとかちょっと立ち上がらせろとか、理由にすらならないような理由で誰かを自分に関わらせようとする。職員がいない時は、他の患者さんを見舞いに来た家族を使ったりもする。こっちがそれに応じずにいると、医学的には全く異常の無い場所に痛みを訴え、検査でも異常無しなその場所を抑えて、悲痛な声で叫び続けたりもする、問題児的な素行のある入所者だ。どこかの会社のやり手ビジネスマンらしい息子は家族全員と共に米西海岸にいるそうで、数ヶ月毎にやってきて、高級菓子のお土産を沢山置いて帰るのだが、それ以外ではずっと、介護だけでなく生活に関わる全てを病院に任せている。医療介護廃止後は、そのまま介護難民化してしまいそうなばーちゃんである。

@#さんの話だと、昨夜は消灯時間後も夜中まで、そして朝は3時の巡視で職員が来てからはずっと、「痛い痛い」とか、「ちょっと来て下さい、ちょっと来て下さい」とか言い続けていたらしく、お陰で昨夜は一睡も出来なかったらしい。

@#さん:「もうやかましゅうてひとっちゃあ寝られん。(うるさすぎて全く寝られない)何とかしてくれんろうか?」

僕:「$¥さんはいっつもこんな感じで、僕等が何を言っても聞いてはくれないんですよ。良かったら、@#さんから直接言ってもらえませんか?多分、僕等が言うよりも@#さんが直接言うほうが効き目あると思います。」

$¥さん:「ちょっと来て下さい、ちょっと来て下さい、」

僕:「$¥さん!お隣さん寝られんって言いゆうやないですか!夜は寝ないかんでしょう?」

$¥さん:「早く来て下さい、早く来て下さい、」

(僕、$¥さんのベッドサイドでしゃがみ込み、)
「どうしました?」

$¥さん:「寝返りを打たせて。」

僕:「それは自分で出来る事でしょう?自分で出来る事は自分でせんといかん。」

(僕、@#さんに向き直る。その僕を見て@#さん、)
「昨夜からずっとそんな感じながちや。もう何とかしてもらえんろうか?」

僕:「お隣さんも寝られんって言いゆうろう?$¥さんも、もうちょっと静かに
しちょかんといかんで。」

$¥さん:「ちょっと来て下さい、早く来て下さい、お願いやきちょっと来て下さい、」

僕:「どうしました?」

$¥さん:「寝返りを打たさいて。」

僕:「さっきも言ったじゃないですか!自分で出来る事は自分でする!用事が無いんだったら無闇に人を呼びつけたらいかん!(@#さんに向き直り)こんな調子なんですよ。もう僕等の言う事は何にも聞いてはくれないんです。もう怒鳴りつけてもいいですから、@#さん直にお隣さんに言うちゃってもらえませんでしょうか?」

@#さん:「そんなん言うたち・・・あたしは人を怒鳴ったりようせんぞね。(怒鳴ったりできません)・・・もう嫌な事ばっかりじゃ。長生きしても良い事らあなんちゃあありゃあせん(長生きしてもいい事なんか何も無い)、はよう(早く)、おじいさんの所へ行きたいちや。」

 

@#さんの言葉が、僕の胸に突き刺さる。「早く逝きたい」は、介護職者が最も聞きたくない言葉の代表選手だ。僕は$¥さんを怒鳴りつけたい気持ちをぐっと抑え、そして時間が許すなら、@#さんの傍にいて話をじっくり聞いてあげたい気持ちを胸にしまい込んで、職員を呼び続ける$¥さんを無視して、@#さんに布団を掛けてカーテンを閉め、病室を離れて朝の業務に戻った。

 

数日後の夜勤でも、@#さんの置かれた境遇には何の変化も無く、相変わらず$¥さんは問題行動と昼夜逆転状態を維持し続けていた。他の職員達もこの現状は@#さんにとって良くないと考えてくれていて、病室を変えるか何かしたいのだが、介護病棟の病室を緩和ケア病棟用の家族待合室に変えた事もあって、移動可能な病室が現状ではどこにも無く、出来るなら個室に移ってもらいたい$¥さんも、個室に掛かる差額ベッド料の負担は家族が了承してくれていない。
そうしてきっと、これからも@#さんのメンタルはダメージを受け続け、そしてそれはいつか、不可逆的な損傷のレベルに達してしまうかもしれない。

そして僕の耳に、悲痛な声で言う@#さんの呟きが聞こえた。

「はよう、おじいさんの所へ行きたい。」

その時そう呟いた@#さんの声が、今も耳に焼き付いて離れない。
ちょっとワガママで気難しい所もあるけれど、@#さんは基本的には、道理の判る、カワイイ所もあったりする、年少者からリスペクトされてもいいおばあちゃんなんだ。
そんなばあちゃんに、「早く逝きたい」なんて、絶対に言わせちゃダメだ。

@#さんの悲痛な言葉は、僕の胸を深く突き刺し、僕の胸をえぐる。

「生きてて良かった」は無理だとしても、せめて、「長生きもしてみるもんだねえ」くらいは言わせてあげたい。

でも一体どうやって?

 

 

 

 

今日も、応援クリックを宜しくお願いします。
人気ブログランキング

ブログランキングもだけど、ワンクリック募金もクリックしてね♪

ついでにこっちにも投票していってね。

|

« 教育格差 | トップページ | 医療・福祉にG.W.なんかあるかよ! »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/8531/41042315

この記事へのトラックバック一覧です: 介護者の胸をえぐる:

« 教育格差 | トップページ | 医療・福祉にG.W.なんかあるかよ! »