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2008.10.31

緩やかな死

「きゃあっ!!」

定時のオムツ交換。・・・さんのオムツ交換をしようとフトンをはぐった同僚が小さな悲鳴を上げた。

「どうしたの?・・・・うわっ!!」

ヒドイ便汚染か何かだろうと思って、手袋をはめながら・・・さんのベッド端に立った僕も、その状況を見て絶句した。

 

・・・さんの左足、その、普段は包帯にくるまれていて見えない左足の、足先の包帯がズレて露出している。その足は既に完全に壊死していて、まるで炭のようにまっ黒に変色していた。

申し送りでナースから、「・・・さんの左足はくるぶしの所から先は壊死していますので、いつポロリと脱落するか判らないので気を付けて下さい。」とは言われてはいたが、その壊死した足が露出しているのを間近で見て、同僚は驚いて叫び声をあげたのだった。

 

 

・・・さんの左足はもう、切断する以外に治療の方法は無くなっていて、その事は主治医から家族に伝えられてはいる。ただ、家族が切断手術に同意してくれないらしく、そうなるとこちらとしては出来る事が何も無いので、それで一般病棟から介護病棟に転棟となったのだった。

脳梗塞による下半身不随から始まって、複数の病気が重なり、そしてそれが進行し、寝たきりの準植物状態となってしまった・・・さん。医療、NST、看護、介護、多職種協同のケアにより生命は維持されているが、その残った機能は少しずつ、緩やかに失われ続けていて、そして今、足先から始まった壊死が、少しづつその版図を拡大している途上なのだそうだ。

壊死を防ぐ方法はあるが、既に起こってしまった壊死を回復させたり止めたりする方法も薬品も、まだこの世界には存在しない。一旦壊死がおこってしまったら、もうその部分を切除する以外に方法は無いのだ。壊死した部分を放置すれば、壊死はどんどん進行を続けるので、足先だけで済んだ切除部分は、膝下になり、やがて下腿全てになる。それだけでなく、壊死部分から出る毒素が体に悪影響を及ぼすので、一旦壊死が生じたら、速やかにその部分を切除しなければならないのだが、その事は、主治医もご家族に説明はしている。しかし・・・さんのご家族は、壊死部分切断手術に同意して下さらないのだ。

入院患者の中でもトップ5に入る。ってくらいに頻繁にお見舞いに来る・・・さんのご家族だが、その様子を見ている限りでは、・・・さんはご家族から深く愛されている。しかし、壊死した左足の切除には同意して下さらない。ナースの話では最初はつま先部分だった壊死はその版図を広げ、今ではくるぶしの部分まで壊死が広がっているとの事だった。

 

この国の医療は、人を簡単には死なせない社会を作り上げた。そこでは、人は生きたまま、自分の体組織が先端から死んで行くのを目視する事が出来る。先端で始まった体組織の死は、心臓が停止するその時まで、気が遠くなるような時間を掛けて、体中に広がっていく。

 

 

 

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